Antiques 1- Chronograph -
時計の世界では,アンティークは70年代以前のものをさすことが多いのですが,このHPでは,1990年以前に製造された時計ということにしています.その中でもこのページではクロノグラフを紹介しています..
(2003/12/25, 2004/12/27, 2005/11/3, 2005/11/4, 2007/10/18)
Movado / Chronographe HP146 (モバード / クロノグラフ HP146)
GPケース/革ベルト/ケース径35mm/厚さ11mm/手巻き
この時計は,1970年代にモバードが製造した,ゼニス製ムーブメントCal. 146HP
を搭載した時計です.しかも,ムーブメントのデモンストレーション用だったのか,なんとシースルーバック!です.2003年に購入しました.
文字盤にモバードの銘はなく,単に「Chronographe」とキャリバー番号である「HP
146」と刻印されています.さらに,黒文字盤に金文字で三重のタキメーターが刻印されています.インデックスもアラビア数字が金縁字で描かれています.ラグは可動式のタイプです.針が少し短めなのが,何とも残念ですが...
この時計の一番の魅力は,何と言ってもそのムーブメント「ゼニス146HP」です.1970年代はモバードとゼニスは提携関係にありました.それでこの時代の時計には,ゼニス製のムーブメントを搭載したモバード銘の時計があります.有名なのはエル・プリメロ搭載の時計ですが,少数ながら,ゼニス146系ムーブメントを搭載した時計もあります.
そもそもゼニス自身は古くからクロノグラフムーブメントを作っていたわけではなく,この146系以外は,エクセルシオパークベースのムーブメントがよく使われていたようです.
1960年代頃の有名なクロノグラフメーカーとして,ユニバーサル・ジュネーヴがあります.ユニバーサルは,傘下にマーテル(Martel,マルテルとも言う)社という下請け会社を持っていましたが,ユニバーサルが経営難に陥ったときにゼニスがマーテル社を買収しました.ですので,ゼニス146系は,マーテル社がユニバーサル285あたりをベースとして後継として開発していたムーブメントのような気がします.
というのは,このムーブメントがあまりにもユニバーサルのクロノグラフムーブメントと特徴が似ているからです.具体的には,大きな三つのホイール,独立したガンギ車受け,それにドライビングホイール側から出ているフリクション・スプリング(friction
spring, ドライビングホイールから中心へ出ている金属棒)です.もちろん,スムーステンプ・平ヒゲでレバー類もユニバーサル285と比較すると簡素化されていて,コストダウンされていることが分かります.ですので,後継ムーブメントだと思います.
ヴィンテージウォッチNo.7によれば,ゼニス146HPはモバードとゼニスが共同で1970年代に開発し,わずか5年で製造中止になったとあります.一方,ウォッチ・ア・ゴーゴーNo.21にはこの時計が掲載されており,それによると,1960年代製のデッドストックムーブメントを1970年代にケーシングして販売したとあります.どちらが正しいにしろ,かなり希少な時計だと思います.
さらに,ゼニス146系の後,ゼニス(マーテル)のクロノグラフ技術にモバードの自動巻き技術を併せて作られたムーブメントが,かの有名なゼニスのエル・プリメロです.ゼニス146系はエル・プリメロの設計の参考にした程度かもしれませんが,リセットハンマーの形状が似ているので,私自身はエル・プリメロの直系の先祖にあたるのでは,と思っています.自動巻きクロノグラフの技術や10振動の技術は凄いことだとは思いますが,こと審美性に関して言えば,個人的にはエル・プリメロよりも146HPの方が断然好きです.私は,エル・プリメロにはたとえ手巻でもそれほど魅力を感じません.
振動数は5振動で,17石です.ブリッジにはモバードの銘とキャリバーNo.である「146HP」の刻印があります.巻き味は懐中時計のようにしっかりしています.ピラーホイール式・キャリングアーム式という古典的な成り立ちですが,プッシャーの感触はそれほど良くはなく,こちらもかなりしっかりしています.
ヴィーナス175やバルジュー23と比較すると,やはりレバー類を合理的に製造しようという意図が見えます.ですが,三つの大きなホイールは見栄えがよくて,個人的には大好きなムーブメントです.(2003/12/25)
Dubey & Shaldenbrand / Index Mobile
(ダービー&シャルデンブラン / インデックス・モビーレ)
GPケース/革ベルト/ケース径35mm/厚さ10mm/手巻き
ダービー&シャルデンブランの代名詞とも言える,簡易スプリットセコンド機能を搭載したインデックス・モビーレです.この時計はかれこれ5年ほど探していて,何度か入手機会を逸していたので「縁がないなぁ」と諦めていましたが,2004年にようやく入手することができました(^^).
この時計は,1980年代の復刻のようです.裏はシースルーバックになっており,クロノグラフブリッジに限定番号と思われる「No.22」という刻印が入っています.
ティアドロップ式のラグに,古典的なメーター表記付のツートン・シルバー文字盤です.メーターは青いタキメーターと赤いテレメーター,そしてその内側にアラビア数字のインデックスが入っています.クロノグラフのプッシャーも古典的な形です.
針はインデックスと同じ金色です.30分積算計と永久秒針の形状も異なります.また,センターの針は時分針以外に加えて,クロノグラフ針とスプリット針が重なっています.さらにセンターには,インデックス・モビーレ機構のためのブルースチールのゼンマイが備え付けられています.
ムーブメントは,ランデロンが製造していたムーブメントの中で最も有名な,ランデロン48です.カム式クロノグラフムーブメントですが,キャリングアームやスライディングギアは採用されています.チラネジ付テンプにブルースチールのヒゲゼンマイです.また,インデックス・モビーレのパーツも青焼きです.ランデロン48には,「上スタート・下ストップ/リセット」の旧型と,通常のクロノグラフと同じ「上スタート/ストップ・下リセット」の新型があり,こちらは旧型です.
インデックス・モビーレには,このランデロン48以外にも,ランデロン149や51などを搭載したものもあります.また,縦二つ目のヴィーナス170やトリプルカレンダーのランデロン185を搭載したものもありました.ヴィーナス170以外だと,シースルーバック版もあったようですが,その中ではこの48の見た目が一番好みです.カム回りの曲線的な部分がなかなか魅力的だと思います.
インデックス・モビーレは,文字盤側のセンターのゼンマイが付いたスプリット針によって実現されています.3時位置のプッシャーを押している間スプリット針が停止します.その間,そのゼンマイが伸びていきます.計測終了時にプッシャーから手を離すと,バネの力によってスプリット針がクロノ秒針に追いつき,追いついたらクロノ秒針に付いている突起物にぶつかってクロノ秒針と重なる,という仕組みです.なお,スプリット計測可能時間は58秒です.
ランデロンは50年代には廉価クロノグラフムーブメントして知られており,ムーブメントの製造数もかなり多かったようです.ただ,ランデロン自身が50年代後半には機械式ムーブメントの生産を止めています.一方,ジャッケ・エトアールに代表される「NOSムーブメントをケーシングして販売する」という復刻時計に搭載されているムーブメントは,だいたいクォーツショック時に生じたNOSムーブメントです.ですので,ランデロンが生産数が多かった割にこのような復刻が少ないのは,ランデロンがクォーツショック時にムーブメントを製造していなかったため,NOSムーブメントがあまり存在しないことが原因だとのことです.(ウォッチ・ビート
Vol.3&4 「オールドムーブメントの小部屋」より).
ダービー&シャルデンブランは,1946年にインデックス・モビーレを開発したゲオルグ・ダービー博士が,レネ・シャルデンブラン氏と共に興したメーカーです.1995年に現オーナーのシネッテ・ロベール女史に経営が引き継がれました.現行のダービー&シャルデンブランの時計は,アエロディーンやカレ・コンブレなど,ロベール氏のセンスが光る時計ばかりです.ただ,私にとってはちょっと価格が高めなのが難点です(^^;;;)...さらに,ダービー&シャルデンブランには,現行ムーブメントを使ったモデルだけでなく,NOSムーブメントを用いたスペシャル・ピースも発表しています.これにもなかなか魅力的なモデルが多いと思います.
さて,この時計は,インデックス・モビーレ,シースルーバックという魅力もさることながら,一番の魅力は古典的なケース形状と文字盤デザインだと思います.最初はシースルーバックということで入手したのですが,入手後に一番魅力を感じているのはこの部分です.この古典的な雰囲気がたまりません(^^).また,インデックス・モビーレのセンターのゼンマイもこの文字盤デザインによいアクセントを付けています.
いやぁ,今まで恋焦がれていただけのことはありました.長い間会えなかった恋人に会ったような気分です!(2004/12/27)
Baume & Mercier / Index Mobile
(ボーム&メルシエ / インデックス・モビーレ)
SSケース(クロムメッキ)/革ベルト/ケース径33mm/厚さ13mm/手巻き
1955年製のボーム&メルシエのトリプルカレンダー付のインデックス・モビーレ.ダービー&シャルデンブランから供給されたムーブメントを搭載しています.2005年に入手しました.
この時計は何と言ってもデザインが秀逸です!蝋付けされたラグは外側と内側で仕上げが異なりますし,クロムメッキされた3ピースケースの質感もなかなかだと思います.なお,リューズとセンタープッシャーは金メッキです.
どちらかと言えばクリーム色っぽい文字盤に飛び数字の金色のアップライトインデックス,その外周のメーターは紺色,トリプルカレンダーの曜日と月の表示は赤,それから金色のリーフ針,と色合いが素晴らしいと思います.
3カウンターのように見えますが,6時位置のインダイアルは日付です.日付付きクロノグラフの場合,日付は窓式かセンターポインターデイトか12時位置インダイアルが多いので,このレイアウトはランデロン独特のものだと思います.
月は2時位置,曜日は9時位置,日付は8時位置のプッシャーで早送りできます.なお,曜日と月はドイツ語で,月は日付に連動していません.大きさの割りに厚く,「コロン」とした印象です.
ムーブメントはランデロン185で,それをシースルーバックを通して眺めることができます.上のランデロン48と比較すると,カム回りの造形が異なる上,レバー類が直線的になっており,コストダウンの跡がうかがえます.
しかしながら,地板にペルラージュ,受けにはコート・ド・ジュネーブが施されるなど,その仕上げは「さすがはボーム&メルシエ」ともいうべきなかなかのものだと思います.仕上げ自身は,ジャッケ・エトアールのパルスメーター・クロノグラフと比較しても遜色は無いと思っています.
こちらのランデロン185も旧型で,「上スタート・下ストップ/リセット」となっています.さらに,インデックス・モビーレ独特のパーツも付加されています.
ボーム&メルシエは,この頃からおしゃれな時計を作っていたことがうかがえます.現在はリシュモングループの一員として,ムーブメントよりもデザインに傾倒した時計を作っているので,現行のボーム&メルシエには私はあんまり興味はありません.ただ,ケープランド,ハンプトン・ミレイス,ハンプトン・スピリット,ハンプトン・シティー,そして今年発表したクラシマ・エグゼクティブ・レトロなど,デザイン力はスイスのメーカーの中でも随一だと思っています.これでリシュモンの中では価格的にボトムな時計なのですから,恐れ入ります(^^).
インデックス・モビーレは,ここを見れば分かる通り,ランデロン48と148・185以外にも,ランデロン51とヴィーナス170をベースとしたものがあります.ランデロンのインデックス・モビーレに関しては,51に関してはレバーの造形と一体形成のキャリングアームがあんまり好きではないので,この2つで十分かなぁ,と思っています.
一方,ここまでインデックス・モビーレを集めると,次はヴィーナス170のインデックス・モビーレが欲しくなってきました.これを「渦巻き症候群」と言うのかなぁ(^^)?ただ,これはシースルーバックをほとんど見たことがない上,ブライトリングの場合は金無垢になるので手が出ません(ToT)...理想的には上のHPの最初の時計なのですが,これはさすがになかなか見かけません...まぁ,のんびり探すことになると思います.(2005/11/3)
インデックス・モビーレの解説ページを作成しました.興味がある方は,こちらからどうぞ.(2005/11/4)
Dubey & Shaldenbrand / Index Mobile
(ダービー&シャルデンブラン / インデックス・モビーレ)
GPケース/革ベルト/ケース径32mm/厚さ11mm/手巻き
上にも書いている通り,渦巻き症候群の私としては,ヴィーナス170搭載のインデックス・モビーレは垂涎の時計だったのですが,2007年にこの時計をついに入手することに成功しました(^^)!しかも,かなり珍しいダービー&シャルデンブラン銘です!
ハの字型のラグのケースがなかなか古典的で,しかもかなり小振りな時計です.シャンパンゴールド文字盤にゴールドのアラビア数字インデックス,すべての針もゴールドと,かなりシックだと思います.インデックス・モビーレなので中央にヒゲゼンマイが鎮座していますが,これは焼きが入っていないのか,青くはありません.
ヴィーナス170を搭載しているので,縦二つ目です.実は私は縦目のクロノグラフは初めてです.ETA7750搭載の時計すら持っていませんし(^^;;;)...30分積算計の針と永久秒針の針の形状が違うところも考えられています.ベルトもオーストリッチのよいものが付いていました.
ピラー式(ただし動力伝達方式はスイングングピニオン式)のため,クロノグラフの動作がランデロンのインデックス・モビーレと比較するとかなりスムーズです.ランデロンのインデックス・モビーレは,リューズに新たに追加されているプッシャーでスプリット・セコンド針を止めますが,この時計の場合は,クロノグラフ動作中にリセットボタンを押すことでスプリット針が停止します.
この時計は,シースルーバックではありません.ただ,いずれシースルーバックにしようと思っています.なお,前オーナーのご厚意によりムーブメントの画像を頂きましたので,前オーナーの了解の上,この画像を紹介しておきます.これを見ると,インデックス・モビーレのレバーがリセットボタンと連結していることが分かると思います.なお,シースルーバックにした際には,このページだけではなく,こちらのページにも画像を追加します.
また,ヴィーナス170は状態がよいものが少ないことでも有名ですが,この時計に関しては,実際に裏蓋を空けて一度確認しましたが,状態がすこぶるよかったです.そういう意味でも,入手して大正解でした(^^)!
いやぁ,まさかこの時計を入手することができるとは夢にも思いませんでした.前にも書いた通り,ヴィーナス170搭載インデックス・モビーレは,ブライトリングの復刻モデルが最も有名で,ダービー&シャルデンブラン銘のモデルは,そもそもほとんど見る機会が無かった上,例え見たとしてもそれは売り物ではありませんでした.しかも,このシャンパンゴールド文字盤のインデックス・モビーレは今回初めて見ました.ですので,かなりレアな時計だと思います.しかも,デザインもすこぶる私好みですし(^^)...
インデックス・モビーレであと残すところは,ランデロン51ですが,これはランデロンが既に2本ありので,まぁ,よいかなぁ,と思っています.ムーブメントの造形もそれほど好みではありませんし...また,兄弟とも言うべきボヴェの簡易スプリット・セコンドは,中央にヒゲゼンマイが付いていないので,個人的には食指が動きませんし...一方,実はバルジュー88のインデックス・モビーレが存在するらしい?!ただ,これは私も画像すら見たことがありません.
というわけで,私は日本(もしかしたら世界?)屈指の渦巻きマニアになることができたと自負しています(^^).これでさすがの私に渦巻き症候群も治まりそうです(^^).と同時に,クロノグラフ熱も現在ではかなり治まっています.この時計は本当に気に入りました!(2007/10/18)
せっかくですので,インデックス・モビーレを3つ並べて撮影してみました.時分針はすべてゴールドのリーフ針,ベルトもすべて茶谷製,しかしラグがすべて異なり,どれも個性的です.いやぁ,なかなか壮観です(^^).(2007/10/18)